東日本大震災の発生から間もない頃、被災地で地元の女性たちが中心になって地元の素材を使ってアクセサリーや雑貨を手づくりしながら復興への確かな一歩を歩みだすという動きがはじまっていました。たとえば石巻市牧浜地区。ここでは地元の山に生息する鹿の角と魚網を活用してアクセサリーを制作。今では全国のショップの販売協力も得て確かな収益を生むに至っています。ほかにも福島県の会津若松市では伝統工芸の会津木綿をストールに仕立てたり、岩手県の大槌町ではひと針ひと針、丹念に地元ゆかりの「かもめ」のデザインを「刺し子」によってコースターにしてみたり……女性たちのものづくりは、一人ひとりの日々の暮らしに小さな経済的豊かさと大きな精神的満足をもたらしていました。

今、こうした被災地の制作現場は数10ヵ所以上にものぼり、そこでは日々多彩なものづくりが行われています。「東北マニュファクチュール・ストーリー」は、被災地でのこうしたものづくりの様子を貴重な文化遺産としてアーカイブしていくプロジェクトです。でも、通販カタログや百科事典を作るようにアーカイブしているわけではありません。本当に伝えたいこと、遺していきたいことは、一つひとつのものづくりの現場で様々な人々によって紡がれる物語です。

クオリティが高いとは言えないけれどみんなの目を留めるものがあります。際立った個性があるわけではないのに売れるものがあります。なぜなのでしょう? その理由は、一つひとつのものが人々の豊かな物語の中で作りあげられたからだと実感しています。「東北マニファクチュール・ストーリー」は、丁寧な取材によってそのことを伝えてきました。

一度訪ねた現場がたとえば数年後にはどうなっているでしょうか?きっと物語は私たちの想像を超えて、いっそう豊かに紡がれているにちがいありません。「東北マニュファクチュール・ストーリー」を通じて多くの皆様に多くのものづくりの現場に想いを巡らせていただけたら……また、年を経るごとに震災の報道機会は減少し、それに伴い人々の記憶も薄らいでいきがちですが、このプロジェクトとともにこれからも被災地に目を向けていただけたらと心より願っています。

東北マニュファクチュール・ストーリー実行委員会

東北マニュファクチュール・ストーリー実行委員会

運営・コーディネート 取材・文 統括 特別協賛
一般社団法人つむぎや 飛田恵美子 株式会社ニブリック トリックスターズ グループ