物語

東北マニュファクチュール・ストーリーでは、震災後に東北で生まれたものづくりを紹介してきました。これまでに訪問した現場は31か所。どの現場でも、製品の裏にかけがえのない物語があることを知りました。その物語は、現在進行形で綴られているものばかりです。

以前訪れた団体は、いまどんな風に変わっているでしょうか。そんな想いから私たちは、取材後に変化があった団体を取材し、「その後」として記事にまとめていくことにしました。今回の記事は、その第一回目。『大槌復興刺し子プロジェクト』のその後をレポートします。

支援される側から、社会に価値を提供する側へ。
「ありがとう」のその先の未来を築いていきたい。

¥IMG_3816

大槌復興刺し子プロジェクトを訪問したのは、2年前の2012年11月のこと。事務所は普通の一軒家で、どきどきしながら扉を開けたのを覚えています。扉の奥では、現地スタッフの方々と刺し子さんが作業をしながらも楽しそうに談笑していて、そのあたたかな空気感にとてもほっとしました。

そのとき取材させていただいた現地スタッフの鈴鹿さんから、「10/25に大槌刺し子大感謝祭を開催します!」とご連絡をいただきました。何やら重大発表があるとのこと。「何を発表するんだろう。もしかして…?いや、でも予定よりだいぶ早いような…」と、期待を胸に会場を訪れました。

会場は、表参道の東京ウィメンズプラザ。ロビーには、刺し子の商品やこれまでの歩みを紹介するパネルが展示されています。

¥IMG_3810

初期の作品から最近の作品までずらり!

1sin様コラボ 蝶ネクタイ(1sin Sashiko Bow Tie) photo:星野真

1sin様コラボ 蝶ネクタイ(1sin Sashiko Bow Tie) photo:星野真

「数字に見る大槌刺し子」のコーナー。売上8,000万円、刺し子さんの収入2,500万、商品ラインナップ27種類と、数字が並んでいます。

大槌町は、死者・行方不明者1,284人、家屋被害3878棟と、東日本大震災により大きな被害を被ったエリアです。その混乱の中から立ち上がりこれだけの成果を上げたことに、改めて感銘を受けました。

¥IMG_3801

来場者は200人を越え、一階席はほぼ満席の状態でした。

まずは、大槌からのビデオレター。会場に来られなかった刺し子さんなど大槌の女性たちからのメッセージや大槌事務所の様子が映像で流れました。とても素敵な内容なので、みなさんぜひご覧ください!

特に印象的だったのは、現地スタッフの方の「ここで仕事するようになってから、大槌をなんとかしていかなくちゃいけないのはうちらの世代なのかなという気持ちが出てきた」という言葉です。

外から来た人が団体を立ち上げた場合、難しいのが地元の人の主体性を引き出すこと。「いつかは地元の人に運営をバトンタッチしたい」と思っているけど、地元の人はどこか受け身のため手を離すことができない。そんな話を聞くことがよくあります。一歩下がって周りを立てる東北人の奥ゆかしさや謙虚さの現れでもあると思いますが、もどかしいところ。大槌復興刺し子は、地元の方の「自分ごと」になることができたんだな、と感じました。

¥1174528_798115850245536_9097579016552290563_n

ビデオの次は、ベテラン刺し子の一兜貴昭さん、大澤美恵子さんのおふたりが登場し、刺し子との出会いやこれまでの歩みを教えてくれました。

会場からの「刺し子をやめたくなったことは?」といった鋭い質問にも、刺し子さんたちは「ん〜、ないねぇ、楽しいからねぇ」とゆったりとしたお返事です。

後でお話を聞いたところ、一兜さんは元々裁縫が好きで、友人と一緒に趣味で和小物をつくっていたそう。しかし、津波でその友人は亡くなり、行き場を失っていたところに刺し子と出会いました。一兜さんは刺し子に夢中になったといいます。

一兜さん:毎週、85歳の姉を車に乗せて事務所へ行くんです。姉はこれが生きがいなんですよ。私もそう。事務所に行くと、みんなに会えるでしょう。スタッフの人たちも子どもみたいでね。毎回、元気になって帰ってくるのよ。

大槌復興刺し子は、刺し子さんたちにとってかけがえのない「日常」になっているようです。

¥IMG_3774

さて、その次はいよいよ重大発表の時間!刺し子プロジェクトを運営するNPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事の鬼丸昌也さんと、プロジェクトマネージャーの内野恵美さんが壇上に上がりました。

重大発表の中身。それは、「大槌復興刺し子を2015年度中に現地法人化(株式会社化)する」ということでした!

2年前に取材したときも「2021年までに運営主体を地元の人へ引き継ぐことを目標としている」と話していたので、もしや…と思っていましたが、6年も計画を前倒しするとは!それだけ活動が軌道に乗ったということでしょう。また、内野さんの存在も大きかったようです。

内野さんは自動車メーカーや国際機関で働いた後、NPO法人ETIC.の右腕派遣プログラム(復興に取り組む団体に有能な若手人材を一定期間派遣するプログラム)で大槌復興刺し子に参加した女性です。

代官山蔦屋書店で大槌復興刺し子のかもめパーカーを見てその可愛さに驚き、「これはもしかして事業として続いていくんじゃないか」と思ったそう。(余談ですが、代官山蔦屋書店の展示は東北マニュファクチュール・ストーリーが主催したもの。あの展示がこんな出会いを生んでいたなんて!と嬉しく思いました。)

活動をするうちにその想いは確信に変わり、「株式会社大槌刺し子」の代表になることを決意したといいます。

¥IMG_3782

内野さん:私の知る限り、ただ稼ぐため、自分のために刺し子をしているお母さんって、ひとりもいないんです。みんなと会える場所を守るため、お嫁さんにお米代を渡すため、まちに働く場所をつくるため、誇りを持てる場所をつくるため。みなさん、誰かのため、まちのために刺し子を続けています。私は刺し子のみなさんから、仕事はこんなに尊くて価値のあるものだと教えてもらいました。

一方で、社会を見渡すと、仕事と家庭の両立に悩む女性はたくさんいます。刺し子プロジェクトは、規模は小さいかもしれないけど、「子どもが生まれても、一度仕事を離れてしまっても、高齢でも、社会とつながることができる場所がある」という希望になれるんじゃないかと思っています。

そのためにも、大槌刺し子を事業化して収益を上げ、地域に還元したい。独立の背景には、そんな想いがありました。内野さんは今後、3人の地元スタッフと一緒に、大槌刺し子を運営していく予定とのこと。

現地スタッフのみなさん

現地スタッフのみなさん

内野さん:この3人が私の希望です。大槌復興刺し子への参加を機に、それまでしたことがなかった営業、生産管理、会計、広報といった仕事を覚え、高いレベルでこなしてくれています。

いきいきと働く彼女たちやほかの刺し子さんのように、「お母さん」の強さと優しさを体現するものを社会に価値として提供していきたい。支援される側から社会に価値を提供する側になって、ありがとうのその先の未来を自分たちで築いていくこと。そんな未来をみなさまとつくっていきたいと思います。

内野さんのまっすぐで力強い言葉に、会場からは大きな拍手が寄せられました。

¥IMG_3788

続いて、刺し子と関係が深い方々によるパネルディスカッション。ゲストは、コラボ商品を刺し子と共同制作した株式会社良品計画の神谷真美さん、地元の若手経営者であり、大槌の復興に取り組む『はまぎく若だんな会』代表の芳賀光さん、東京から被災地の支援を行う『つなひろ亭』の小澤治美さんです。

それぞれの活動内容や刺し子との関わりについて話していただきましたが、特に芳賀さんの言葉が印象的でした。

芳賀さん:正直言って、最初に吉野くんに会ったときは「この子何を考えてるんだろう」と思っていたんです。吉野くんは気持ちが優しくて、誰とでもすうっと仲良くなってしまう人です。ぼくは疑り深い人間だから「絶対に何かあるな」と思って、ちょっと距離を置いていました(笑)でも、彼はどんどん入ってくるんですよね。そうすると僕も悪い気はしなくなって。

震災後、大槌ではたくさんの団体が立ち上がって、わけがわからない状態でした。元々暮らしていた私たちからすると、裸になった自分を見られているというか、全て失って何もない中、言い方は悪いかもしれないけど、土足で踏み込まれているような気持ちもあったんです。そういう人たちは続かないだろうなと思っていました。でも、吉野くんは良い方向に期待を裏切ってくれた。

助成金が切れて去っていった人はたくさんいます。それはそれで、そのときの役割を果たしたということで悪いことじゃない。でも、そうした中で刺し子が株式会社化をするというのは、とてもすごいことだと思います。大々的に報道されていいことじゃないでしょうか。

¥IMG_3794

地元の人が外から来た人に対して抱く複雑な感情を、率直に真正面から表現されていた芳賀さん。だからこそ、刺し子プロジェクトのみなさんが、地元の人たちからの信頼を一つひとつ積み重ねてきたことがわかる一幕でした。

なお、吉祥寺のハモニカ横丁朝市では毎月、刺し子の製品を販売しているそう。また、無印良品では、刺し子のクリスマスオーナメントがもうすぐ店頭に並ぶとのこと。みなさん、ぜひチェックしてください!

¥IMG_3813

さて、時間も残すところあとわずか。壇上には大槌スタッフの佐々木静江さんが登場しました。

佐々木さんは最初は刺し子さんとして参加し、少しずつ運営側へとシフトした方です。何をするにもゼロからのスタートという状況やスタッフとのすれ違いから、イライラしたこともあったそう。でも、尊敬する人から「あなたの存在自体が復興なんだ」と言われたことから、「私も進んでいかなくちゃいけない」と思い直したといいます。

佐々木さん:地元を大切に、明るい未来を築いていけることがとても幸せです。こんな考え方ができる自分になれたことがとても嬉しいです。たくさんの人に仕事を提供して、大槌刺し子を産業にしていきたい。内野さんと一緒に前進していきたいと思います。

懸命に言葉を紡ぐ佐々木さんの姿に、会場では涙を流す人の姿も。とても心に響く内容でした。

¥IMG_3872

そして締めは、岩手のお祝い事の定番・「餅まき」!刺し子プロジェクトのメンバー一人ひとりが、会場に向けて餅をまきました。

¥IMG_3829

参加者は飛んでくる餅をキャッチしようと、右へ左へ大騒ぎ!ちなみに、用意した餅の数はなんと1000個だそう!笑い声と熱気に包まれながら、イベントはフィナーレを迎えました。

¥IMG_3899

¥IMG_3879

イベント終了後、ロビーには鈴鹿さん、吉野さんの姿が!ふたりとも、穏やかな笑顔は変わっていません。

鈴鹿さんはまだしばらくの間は大槌刺し子スタッフとして活動するそう。吉野さんは、大槌で自分の事業を立ち上げるべく奮闘中とのこと。東京出身の吉野さんですが、「これからもずっと大槌にいるつもり」と話していました。

¥IMG_3897

一角では刺し子の実演も。その日刺し子のかもめパーカーを着ていた私に一兜さんはこう話してくれました。

一兜さん:新しい商品が出てくると、試作を頼まれることがあるの。それで「もっとこうしたらいいんじゃないか」「こう縫ったほうがいい」と提案したりするでしょう。だから、その商品のことはいつまでも可愛いのね。今日はみんなが着てくれていて嬉しいです。

こんな言葉を聴くと、ますますかもめパーカーが愛おしく見えてきます。やっぱり、つくり手の方の想いを知ると、商品への愛着は増すものですね。東北マニュファクチュール・ストーリーではこれからも、記事を通して、つくり手と買い手をつないでいきたいと改めて思いました。

¥IMG_3822

吉野さんの「おばあちゃんを泣かすな」という想いから始まった大槌復興刺し子プロジェクト。それがこうしてたくさんの人たちの手によって株式会社大槌刺し子へと成長していくのは、とてもすばらしいことだと感じました。一針一針、刺し子さんたちが紡ぐ未来をこれからも楽しみに見守っていこうと思います。

▶以前の記事はこちらをご覧下さい。大槌復興刺し子プロジェクト STORY前編・後編

2014.10.25